おかえりっ! 夕凪色の恋物語

筆者はこの作品を『SIMPLE1500シリーズ』で2001年の年末発売と同時に購入したのですが、元はパソゲーで、2001年の2月に発売されたそうです・・・っと聞くと結構前に発売された割りに、ちっとも話題に登らなかったなぁと逆に驚いてしまいました。かなりの恋愛ゲー好きでもこの作品の事、知らない方が多いのではないでしょうかね? こう言ってはなんですが、作品を売り込むべき営業さんがどえらく無能だったとしか思えませんね。つまり、めちゃくちゃ面白いのです、コレ! 筆者もほんと軽い気持ちで1500円を出して買ったのですが、遊んでみたら瞬時にして『おかえりっ』の世界にどっぷりハマってしまったのと同時に、「なんでこれが1500円なんだ!?」とそれはもう驚愕と疑問がないまぜになったような感情を抱きました。

とにかくストーリーが誠に素晴らしい。ベースになる話(島を取り巻く事件)がキチンと1本あって、実はそれだけでも読み物としてかなり面白いのですが、それに8人の女性(メイン5人、サブ3人)がよくもまぁ、ものの見事にバランスよく絡んでくるのですね。1人クリアするごとに島の事件や謎が少しづつ分かってきて、全員クリアとともに事の真相がハッキリするという話の持って行き方にも、矛盾点がちっともなくハラハラ感も相まって読み応えバッチリでした。ただこれは作品のベースとなる話であって、メインは8人の女性との恋愛話ですよ、もちろん。しかしこれがまた、なんと言ったらいいか・・・とにかく凄いのですよ、バリエーションが。激しい恋物語があれば、さらっとした恋愛もあるし、年上との恋もあれば、男性との恋愛だって楽しめる(!)。もう恋愛ゲーの基本となるシチュエーション、良い所取りという感じなのですが、上記に挙げた話のバランスの良さが旨く作用していて、ちっとも違和感がありません。かえって一粒で8度おいしい恋愛話が楽しめて大満足なのであります。

ただし、良い悪いは別として、この作品の特徴で必ずストーリーの中盤に精神的にヘコむ場面があります。旨く相手の女の娘と会話出来るようになってきたなぁと安心してきた所で、ドカンっと二人を引き離すような展開が起こります(メインだと必ずあります)。なもので、選択肢を間違えていると暗い展開を引きずったままアッと言う間にバッドエンド直行なので、精神的ダメージが実に強烈。プレイ前はある程度心の準備をしておくが吉です(最近のほのぼの恋愛ゲーに慣れきってる方は特に)。ただ筆者みたいに昔の少女漫画(話中、紆余曲折ありまくりでラストがハッピーってノリのやつ)が好きな方にはまず間違いなくツボにくると思いますよ。なんだか妙に懐かしさを覚えましたから。

さてさて、凄いと言えば声をあてている声優さんもビックリどっきりの豪華さで、移植作品とは言え1500円でこのメンバーが堪能できれば何も言う事がありません。多分、坂本真綾さんファンは必携でしょう。あと個人的にはくまいもとこさんが可愛い女の子をやっているのも驚き。だいたいこの方、男の子役か『ときメモ2』のキてる生徒会長みたいな、はっちゃけた女の娘が役どころのメインという気がするだけに、これはちょっと貴重なのでは?と思ったり(しかもEDまである!)。池澤春菜さんが大人しい系統の女性を演じるのも珍しい気がしますし、声優ファンも要チェックですね。因みにキャラデザは『セーラームーン』で脚光を浴びた只野和子さんで、シナリオは筆者も大好きな『宇宙海賊ミトの大冒険』のシリーズ構成をされた志茂文彦さんです。こちらの方々のファンにもお奨めですよ。

まただらだらと私評を述べてしまいましたが、とにかくこんな面白いソフトが1500円で遊べるのですから、騙されたと思って買ってみましょう。必ずプレイヤーの心に何か温かいものを残してくれると信じます。そういえば他のサイト評で『二十四の瞳』に感じが似ていると書いている方がいましたが、この方、なかなか鋭いなぁと思いました。

◆ お気に入りBEST3

BEST1
篠原渚 CV:坂本真綾

主人公の幼馴染で、主人公が10年前まで暮らしていた姫神島に住んでいる17歳の高校生。教育実習生として再び姫神島に戻ってきた主人公と久しぶりに相対するも、自分の顔をすっかり忘れられていて拗ねてしまう可愛い所があります。性格も温和且つ思いやりがあって、母親のいない篠原家を取り仕切るしっかりもの。毎朝毎朝、主人公は目覚まし代わりにこの娘に起こしてもらうのですが、時には厳しく時には優しく(?)起こしてくれる世話焼きぶりで、プレイヤーとしては羨ましい限りでした。ただ、他人を思いやる気持ちがあまりに強すぎる為、周りの平穏の為なら自己犠牲もやむなしと考える性質が災いして、主人公と疎遠になったりします。キーは兄妹。この島に伝わる伝承そのままに誤解によるすれ違いが発生するので、とにかく邪険にされても彼女の側にいるよう努めましょう。バッドエンドのように兄妹の関係のままなんて寂しいですものね。このゲームはベストエンドを見るとその後に後日談が語られるのですが、彼女の場合は手紙のみなのでちょっと味気なかったり。ま、『愛してます』と書かれていればそれはそれで満足でございますが。真綾さんの演技は実に穏やかで渚にピッタリでしたね。なんとも優しい気分になれますよ。

BEST2
姫神澪 CV:池澤春菜

姫神島で古くから神事による言霊で権勢を振るってきた姫神家の一人娘。神々しい中にも優しさに満ち溢れており、接する者、皆に安らぎを与える不思議な雰囲気を持っています。実際、動物と心を通わせたり先の天候を言い当てたりと、常人には無い力を持ち合わせている様子。一方で、外界から遮断された世界で生きてきた為か、極端に世情に疎く、娯楽といっても母親から与えられた本を読むだけという寂しさ。そこで主人公がいろいろ文化的なものに触れさせようと、音楽を聞かせたり祭りに連れて行ったりします。外界の世界に強い興味を持つとともに、主人公にも心惹かれるようになる彼女でしたが、あまりにその思いが強くなってしまった為に神事による御告げに支障が出始め、外出禁止になってしまいます。キーは青い水。姫神島も強く愛する彼女は、自分を犠牲にしてでも島の平穏を取り戻そうとします。もちろん主人公もその気持ちを汲むとともに、閉鎖的な因習に囚われている姫神家に人間として大事なものが何かを諭してあげましょう。どうやら主人公と澪さんは伝承にある男女の生まれ変わりみたいですね。ホント、幸せになって欲しいです(なにせバッドエンドがかなり悲しいので・・・)。ところで声は池澤さんですが、こういう大人しいキャラも上手に演じますね。役幅が広くなって今後の活躍も大期待です。

BEST3
藤崎晶 CV:川澄綾子

いや、一応こんな特集ページを作っている程ですから、恋愛ゲーは数多プレイしてきておりますが、まさか攻略対象キャラからあんなにいっぱい「死ね」と言われたのは初めてではないでしょうか。最近の若者もまさに口癖のように「死ね」という言葉を使っていますが(この晶というキャラも若干ヤマンバ入ったコギャル(死語か?)なのですが)、実際目の当たりにしたらたぶんムカつくのを通り越してキレるのではないでしょうかねぇ。とにかく、上記総評で話の途中で精神的にヘコむ部分があると書きましたが、このキャラに関してだけは初っ端から邪険にされまくるわ「死ね」を連呼されるわで、いきなりヘコみまくりですよ(性格がMな方にほんとお奨めします)。それでもシツコクしつこ~く話し掛けていれば、若干ですが心を開いてくれます。キーは東京。現代っ子まるだしの彼女にとって、ど田舎である姫神島は苦痛以外の何物でもなく、即おん出てやろうと息巻いています。実際に物語後半で東京に飛んでいってしまうので、主人公もここまできたら追いかけて行きましょう。なにかにつけて反発する彼女も心の拠り所があれば、それなりに可愛くなってくれるのでした。EDの「別れ話しても泣きついて来るのはいつも彼女の方」という話なぞ、意外と純情な彼女らしいエピソードでしたね。声は川澄さんですよ。あの『To Heart』のほんわかあかりさんですよ。同じ人が演じているとはとても思えない!

番外1
篠原緑 CV:くまいもとこ

渚の妹。弟じゃないですよ。小学四年生で主人公が教育実習で教える事になる生徒なのですが、先生というよりは渚と一緒で”気軽なお兄ちゃん”扱いをしてくれます(でも一応呼ぶ時は”先生”ですけれど)。明るく元気な性格で学校や篠原家を盛り立ててくれますが、話の展開によっては気苦労が堪えなかったりするので、お祭りでは玩具ぐらい買ってあげましょう。しかしまさかこの娘のEDがあるとは思いもしませんでした。一応十年後に結婚(同棲?)という事になっていますが、その時ちょっとだけとはいえ、可愛らしいくまいさんの声が聴けてホント幸せでした~。

番外2
立花亜紀 CV:竹間千ノ美

実は苗字が不明(本編には確か出ていないハズ)。ついでに声優さんも不明という不思議な女の子(ま、攻略対象キャラでは無いので)。主人公が教える事になる生徒の一人なのですが、大人しい女の子でほとんど喋りかけてきません。話し掛けてもこれといったリアクションもしてこないのでハテナ~と思っていたら、あるキャラを攻略していく事で事実が判明します。キーはマリちゃん。とにかくこの作品の中で守ってあげたいキャラNO.1がこの娘だったりします。少しずつ心を開いていく様が実に実に可愛らしいのです。故にこの娘のEDがないのだけが、当ソフト唯一の不満点でしたね。
【追記】名前と声優さん判明しました。この方、お婆さんの声もやってらっしゃるみたいで、役幅の広さには感服いたします。

日記アーカイブ ゲームレヴュー
アーカイブ

管理者 :
ビーフストロガノフ(屠絵 味噌)