ビーフストロガノフの
ゲーム感想日記
ゲームプレイの感想を中心に、徒然なるままに書き殴り。たまにイラストつき
２００５年初頭に彗星の如く現れた傑作。筆者はいつもの”流行に乗り遅れる”気質が災いして０５年３月になってようやく本作をプレイした訳ですが、なるほど、多くのプレイヤーを虜にしただけの事はありました。恐らくプレイした方のほとんどが『マリア様がみてる』の二番煎じ的な作品と見ていたと思います。筆者もそうでした。発売されたタイミングもそう思わせて仕方の無い時期でしたし。一番危惧したのが百合な展開。筆者はコレが大の苦手でして、『マリア様』も途中で読むのを止めた程です。故に、この『おとぼく』も一応主人公は”男”という事にはなっていますが、百合絡みの話が時節柄「やはりメインなのだろうなぁ」とプレイ前は邪推していました。
ところがどっこいしょ。
はっきり言います。これは漢のストーリーです。百合な話もあるにはありますが、添え物程度の扱いでした。メインは”漢の中の漢”と断言できる宮小路瑞穂と、様々な意味でノッピキならぬヒロインとのちょっと異質な恋愛ストーリーでした。しかも超が付くほどの純愛物。瑞穂の特異なキャラクターで有り勝ちな恋愛話からの逸脱を図ってはいるものの、実際はお約束な展開をきっちり守り過ぎているくらい。ボーイ・ミーツ・ガール物が好きな方（筆者も含めて）には確実にドツボな作品です。しかし、だからと言って百合好きが肩透かしを食うかというとそうでもありません。上で瑞穂は”漢の中の漢”と書きましたが、作品内での容姿は間違いなく女の娘です。声優も女性が演じていますし、共通ルートでは彼が男であると認識できる場面はほとんどありません。ＥＤまで（ＥＤ以降も？）ヒロインとまりや以外は誰も瑞穂が男だとは気付かなかったぐらいですから徹底しています。おそらく製作者側はその点で相当拘ったのではないでしょうかね？ おかげで、シチュエーションを楽しむタイプの方になら百合な話と捉えても差し支えない気がします。女性プレイヤーにも受けは良いかもしれませんね。ただ重ねて申しますが、これは漢のストーリーです。間違いなく。詳しくはキャラ個別の感想で。
キャラの特異性で煙に巻いてはいますが、ベースは至極普通の恋愛物です。お約束の枠からはそれほど逸脱していません。ただ、この作品のライターさんはこの”お約束”の生かし方が非常に巧いのです。日記の方でちょろっと書いた気がしますが、お約束な展開で行く時はやはり勢いが大事だと思うのです。コレで突っ走るなら躊躇せずにとことんハイスピードは鉄則。そこで勢いが感じられなければ、幾万とある駄作ゲーの中に埋もれるだけの話です。特に本作は女装した主人公という設定で変化球を投げている分、お約束話に力不足が露呈すれば瞬時に駄ゲーの烙印が押されていた事でしょう。しかし、当作品のライターさんにはこの心配は杞憂だったようです。第１話のエルダー就任話。正直、驚きました。普通なら中盤以降で２話ぐらいに分けてやりそうなネタをいきなり１話で、しかもその話数内で無理なく書き切ってしまったのです。驚くと同時に、燃えカタルシスを巧みにプレイヤーに植付けたライターの力量に感服しましたね。そしてその力量通り、２話以降もこの勢いに留まる事無く終盤まで一気に駆け抜けました。本当に素晴らしい。嵩夜あや氏はこの先楽しみなライターさんの一人になりました。
とにかく、シナリオの完成度はここ最近プレイしたギャルゲーの中でもピカイチでした。ただそれ故に気になった点も幾つか。やはりヒロインによってシナリオに若干温度差があったのが気になりました。紫苑や貴子シナリオの盛り上がり方からすると、あまりに由佳里が地味。奏シナリオも共通ルートのイベントに比べるとややパンチ不足を感じました。個人的趣向からして年下キャラにあまり食指が動かないもので、それ故に見た目以上に不足感を覚えてしまった可能性も否定できませんが、それでも主人公の破天荒さに釣り合うにはあまりに２人は普通の人なのですね。あと１つか２つ、彼女達に何か好感の持てる特徴を付与してあげれば良かったかも。それと、もう１つ気になったのが先生のＨシーン。明らかに不必要でした。嫌悪感しか沸いてきませんでしたし、おかげで音楽室のイベントも印象に浅く、全ストーリーの中で唯一盛り上がりに欠けた場面でした。何と申しますか、エロゲーの限界を見た思いです。
つらつらと感想を書いてきましたが、真の感想は以下の個別批評で行います。それ程に強烈なインパクトを残したキャラがこの作品にはいるのです。ほとんどこの方のインパクトだけで最高評価である☆マークを付けた様なものですし。因みに今迄この☆マークを付けたソフトのメーカーは、全てゲーマーなら知らぬものが居ない程の一流メーカーです。コナミ、Ｋｅｙ、Ｌｅａｆ、セガ。そこに一般ゲーマーには耳慣れない、キャラメルＢＯＸが入ったのです。実を言えば、☆マークを付けた当筆者も、貴子さんをクリアしてあまりの凄さに驚いてからやっとメーカー名を覚える気になったぐらいで・・・。しかし、それ程にインパクトのある面白い作品を作ったのです。世間の評価も鰻上りの今、まさにキャラメルＢＯＸはチャンスの時。次の作品はいろいろな意味でキャラメルＢＯＸの真価が問われる事になりそう。単なる中堅メーカーで終るのか、それとも一流メーカーの仲間入りをするのか、今後の展開には大注目ですね。本当頑張って欲しい。この『おとぼく』が単なる一発屋だったと言われない為にも。
◆ お気に入りＢＥＳＴ３
BEST1
厳島貴子 ＣＶ：佐本二厘
ツンデレ界の期待の星。日本のオタッカーにツンデレとは如何なる者かを脳髄に叩き込む為にツンデレ星から送り込まれた刺客。恵泉女学院の生徒会長に身を謀って、全国の宮小路瑞穂（つまりプレイヤー）にその毒牙を掛けまくりました。その毒は噂に違わぬデッドリークラスの劇毒で、侵されると貴子さん以外のツンデレキャラを一切認めなくなってしまうのです。嗚呼恐ろしい。最終話『史上最大の侵略』で鏡魅羅上司の説得を振り切って出撃。パンドンまりやの執拗な攻撃を愛スラッガー返しで粉砕。自らの使命を見事果たした貴子さんは、明けの明星をバックにツンデレ星に帰っていくのでした。めでたしめでたし。
普通の感想が書けねぇ。
とにかく凄いキャラです。高飛車愛好家の筆者を萌え地獄に叩き込んだのは本当の話。貴子さんシナリオをクリアした後、１０回ほどリピートプレイしたぐらいです。それでもまるで飽きを感じさせないのですから、間違いなく本物のヒロイン。過去筆者が選んだギャルゲーヒロインの中で第３位にランクインしていた『ＥＶＥＲ１７』の小町つぐみさんを軽く蹴落としました。大躍進です。流石に１位、２位越えは鉄壁過ぎて難しかったかな。因みに１位は『痕』の柏木千鶴さんで２位は『月姫』の遠野秋葉さんです。この２人に共通しているのが、胸が無い事。もし貴子さんが胸無しだったらマジヤバでしたね。・・・・・・ホントかな？
彼女の萌えの所以は丁寧なイベント描写にあります。尺幅の短いイベントを共通ルートの合間にちょっとずつ挿入する事で、彼女の性格をプレイヤーに巧みに刷り込みました。おかげで貴子さんのシナリオに突入しても、自然に無理なく話に没頭する事が出来た訳です。これはなかなかに出来ない芸当ですよ。昨今のギャルゲーは過程をおざなりに書く作品が実に多く、いつのまにか主人公とヒロインの関係がラブラブに発展していて驚いたという経験、かなり頻繁に感じるようになりました。もちろんラブラブな展開が見たくてギャルゲーをプレイしている身からすればそれも確かに大事なのですが、それよりも重要視すべきはそれに至るまでの過程です。説得力のあるラブ話には必ず過程がキッチリ描かれているものです。ゲーム内の決められた容量の中でそれを描き切るのは難しい事ではありますが、この作品のライターは巧みにそれを表現して魅せてくれました。素晴らしい手腕です。このような才能あるライターにより貴子さんというキャラクターが生まれた事を心から感謝する次第であります。
貴子さんシナリオで一番好きな場面は勿論、瑞穂さんの告白シーンです。何度みても萌え死ぬ。面白い事に、あの告白の場面になると何故かプレイヤーの視点が貴子さん寄りになってしまうのです。おそらく上に挙げた刷り込みの効果だと思うのですが、つい一生懸命な貴子さんに入れ込んでしまうのですね。だから、瑞穂さんの告白が無茶苦茶に嬉しくて、貴子さんの興奮も手に取るように分かるのです。『おとぼく』至上最高の名シーンでした。もう何も言わん。いつまでも瑞穂×貴子でラブラブで居てくれい。
貴子さんの声を充てていたのは佐本二厘氏。”さもとふうり”と読む事も驚きですが、それよりも『Ｐｕｒｅ×Ｃｕｒｅ』で橘果林を演じていた事に驚愕。全然タイプ違うやん・・・。この役幅の広さは一流の証。必ずやブレイクしてくれる事でしょう。応援しています。
BEST2
十条紫苑 ＣＶ：木原泉
誰もが認める恵泉女学院の裏番長・・・もとい裏エルダー。彼女のどっしりとした落ち着きと威厳が瑞穂政権を支えたのは間違いない所。体が健やかであれば偉大なるエルダーになっていた事でしょうね。結構お茶目でライトに腹黒く、策士という言葉がピッタリ。奏を巡っての生徒会との攻防も彼女あっての勝利でした。貴子さんからすると表立っては言えないまでも彼女の存在は目の上のタンコブだった可能性大か？ ところが紫苑さんの悩みはその貴子さんの実家にありました。キーは厳島家。厳島家の長男との政略結婚の為、とある人物に対する恋愛感情を振り切ろうとしています。ただ、奥ゆかしい彼女の精一杯の隠し事も我らが瑞穂さんの前には塵にも等しいのではありますが。鏑木財閥をバックに紫苑さんを掻っ攫う瑞穂さん。素敵です。紫苑さんも、結局は”男”を見る目が正しかったという事ですな。良き夫婦になる事でしょうね。ただ気になったのがＥＤで夫婦別姓にした事。企み上手な彼女からして言葉通りの意味（殿方にもてなくなるとか）には取れず、何か意図がありそうな気配がするのですが・・・穿ち過ぎでしょうか？ 声は木原泉氏。ネットで検索をかけましたが『おとぼく』以外引っかからなかったので、もしかしたら新人の方なのでしょうか？ それにしては年期の入った旨さを感じましたが。有望株である事は間違いなさそう。
BEST3
宮小路瑞穂 ＣＶ：神村ひな
この欄で男キャラを扱うのは２人目ですが、今回はこちらで扱う方が相応しいと思いまして。総評でも述べましたが、容姿は完璧に女性です。声も女性が演じていますから違和感もゼロ。確かに最初は女装に対する抵抗がチラホラ見受けられるのですが、後半は素で女生徒を”年上の女風味”で誑かすまでに至ります。この変貌は見ていてかなり楽しい部分でした。本人は落ち込んでいましたが、そんな凹んだ瑞穂さんにチョッカイをかけるまりやや紫苑さんの気持ちも良く分かりましたね。イジリ甲斐があると申しましょうか・・・。ただし、彼の本質はこのような軟弱なものではありません。何度も言及している通り、彼は漢の中の漢なのであります。決める所はキッチリ決める最高最強の主人公でした。なにより凄いのが、様々な問題を全て自らの行動と言動で解決してしまう事。特に言動のパワーが凄まじいばかりで、強烈なる説得力で彼に良くも悪くも反抗する人々を納得ずくで魅了してしまうのです。そのストレートな言霊にはプレイヤーも惚れ惚れすること間違い無し。これで肝心要な場面での行動力もピカイチなのですから、何も言う事はありません。女性の容姿は大いなるフェイクですね。真の漢ですよ彼は。それに比べて他のギャルゲー主人公のなんと女々しい事か！ 恥を知りなさい！ 声は神村ひな氏。事故に遭われて大変だったようですが、ＦＤで復帰されると聞いて安心しました。やはり瑞穂さんの声はこの方で無ければ！