ビーフストロガノフの
ゲーム感想日記

Ｆａｔｅ/ｓｔａｙ ｎｉｇｈｔ

どう転んでも良作以外の何物でもないのですが、たった１個の疑問符がある為に１段階評価を下げざるおえない困った作品です。その１つの疑問符とは、もちろん桜シナリオの存在にある訳ですが、それに関しては以下の個人評価でつらつら述べるとして、ここでは総合評価を。

まずシステムに関してですが、やはり『月姫』とは比べ物にならないほど遊び易くなっています。セーブ箇所が３００もあって、ほぼ全ての選択肢をセーブしても問題が無い位。Ｓｋｉｐも早いですし、話の先送りや後送りがホイールを回転させるだけで行えるので非常に楽。コンフィグも細かく設定できますから、プレイしていてストレスを感じる事はほとんどありません。

次にグラフィックですが、これを『月姫』と比べるのもどうかとは思いますが、大変に美麗になりました。特に背景の緻密さとキャラの塗りの深さ、アクションシーンの光源処理が秀逸。加えてキャラの立ち絵が相当数用意されているので、これらにより更にキャラに対する印象が深くなりました（セイバーなんてモロ、その恩恵に与ってる気がします）。もちろんその強いインパクトも、攻略対象キャラを３人に絞った分、１人のキャラを立てるのに相当細かい演出を付ける事が出来た結果とも言えます。ただ、その緻密な演出の為に話以上に不運に見舞われた方が、１人だけいたり・・・。

ストーリーに関してですが、こちらも完成度は高いです。ＡＤＶゲーにしては膨大なプレイ時間を要求されるのですが、それでもほとんど中だるみを感じる事無く、最後まで一心不乱に読み込ませる牽引力には、相変わらず脱帽する他ありません。特に本作品は聖杯戦争というかなり物騒な事象が物語の根幹に存在する為に、始終緊迫した状況に置かれる訳ですが、それでも合間合間に日常的なホッとする話を埋め込んでくるので、話の強弱の付け方が絶妙で飽きをまったく感じさせません。また、聖杯戦争に絡む英霊や剣などの設定の緻密さも相当なもので、かえって設定が先走ってプレイヤーが置いてきぼりを食らう可能性もあったのですが、そこはきのこ氏の文才と、常にプレイ中に各サーヴァントのステータスが確認できる親切さでクリアしています。このプレイヤーライクな設定描写には、本当に好感が持てましたね。逆に残念だったのが、１人１人のキャラに付随するストーリーが単品では素晴らしくとも、『Ｆａｔｅ』という作品全体のバランスという点では少々問題があったように思われる点です。つまり、あの方の話が本当に必要であったのか？という疑問。コレに関しても以下のキャラ感想で詳しく述べます。

と言う訳で、大絶賛したいのですが、ちょっと歯になにか挟まったような物言いになってしまいました。もちろん人によってこの作品の感じ方も様々だと思いますので、１ＴＹＰＥ－ＭＯＯＮファンの提言だと思って以下読み進めてください。一応筆者はハッピーエンド至上主義者且つ、セイバー原理主義者（？）である事をここに宣言しておきます。

◆ お気に入りＢＥＳＴ３

BEST1
セイバー　ＣＶ：なし

主人公のサーヴァント。この作品には７人のサーヴァントが存在するのですが、その中でも最強と言われています。ただ、セイバーの主としては主人公の力量が不足している為、実際の戦闘では苦労の連続。しかもこの主人公が恐るべき自己犠牲の持ち主なもので、セイバーを助けようとして怪我しまくって余計、セイバーを困らせます。このシナリオはどちらかというと主人公よりセイバーに肩入れしたくなるかも。キーは食事。主人公からほとんど魔力の供給が無い為に、睡眠と食料摂取で体を維持していく事になるのですが、セイバーが元いた所の料理が曰く”雑”だったらしく、主人公が作った料理を大喜びで食べてくれます。「こくこく」いいながら食べるＣＧが激見たかった。逆にちょっとでも料理の質が落ちたり食事関連でセイバーをからかったりすると、フル装備で叩きのめされるので要注意。エンディングに関してですが、確かに綺麗な終わり方だったとは思いますが、それだけに切な過ぎます。何とかＦＤ等でＧＯＯＤエンド作って欲しい。シロウとアルトリアのラブラブ話を作ってくれい！

BEST2
遠坂凛　ＣＶ：なし

今回の聖杯戦争におけるマスターの一人。性格は利己的で完璧主義者。何事にも無駄を極力排除してスマートにこなす事を身上としている様子・・・なのですが、どーも頭から１本螺子が外れているのか、肝心な所で大ポカをかます愉快な方です。その中でも最大のポカは、序盤のセイバーを呼び出そうとしてアーチャーを召還してしまった事。これには凛もショックだったようですが、実はこれが彼女の運命を決定づけます。キーはこのアーチャー。終盤からラストにかけての凛とアーチャーと主人公の３人の駆け引きは、本当に手に汗握ると思います。それぐらい燃えます。そしてたどり着いた先にある、あの笑顔！　もう、何度アノ場面を見て泣いた事か・・・。とにかく凛ルート終盤は『Ｆａｔｅ』という作品の真骨頂と断言出来ます。この感動を味わう為にも是非『Ｆａｔｅ』、プレイして欲しいなぁと思う次第でございます。エンディングですが、ＧＯＯＤは蛇足だと思いました。アレを作るぐらいならばセイバーＧＯＯＤを作れ！と言いたくなりましたよ。逆にＴｒｕｅは鼻血モノ。喜んで倫敦に付いて行くぜ！

BEST3
間桐桜　ＣＶ：なし

筆者がいままでプレイしたゲームの中で最高最速最凶に不幸な人。あまりに不幸で目も当てられません。ストーリー内で不幸なのは勿論の事、プレイヤーにまで総スカンを食らう。ホント同情心すら沸きません。それは何故か？・・・・・・について真剣に考えてみたいと思います。深くはありませんが、ネタばれが少々ありますので注意。

まず、桜自身の設定からして不幸のどん底です。プレイヤーも吐き気がするほど、実の祖父と兄にアレコレ酷い仕打ちを受けています。それでもその事をひた隠しにして、主人公に朝食を作ってくれたりする訳です。普通はこういう展開だと「守ってあげなくちゃ！」とか考えるものですが、主人公のシロウはそう思っていても、実際にプレイしている筆者にはちっともそんな気がおきません。例えば非常によく似た境遇で『月姫』の琥珀さんがいますが、少なくとも彼女に対しては同情心を持ちました。この違いはなんなのでしょう？　答えはこの作品のシステムにあるように思います。

１つはインタールードの存在です。この作品は通常はシロウの視点で語られるのですが、各章の序盤にインタールードが入って違うキャラの視点に置き換わります。桜シナリオだと桜の視点で語られる場面が頻繁に登場するのですが、そこで桜の裏の面が如実に表現されてしまいます。そう、桜というキャラは後天的に備わった可能性が高いとは思いますが、非常に独占欲が強く自分本位で物事を考える性格なのですね。物語の中盤以降、この性格をかなりしつこくプレイヤーに植えつけてくるので、おそらくプレイヤーは彼女に同情心を持つよりも先に嫌悪感を抱くと思います。逆にシロウはそんな桜の心根など分かるはずがありませんから、必死になって桜を助けようとするので結果、なんとはなしにプレイヤーとシロウとの間に溝が出来てしまうのです。これがシステム上の問題の１つ。もう１つはストーリー攻略の順番にあります。このゲームは３人のキャラの攻略の順番が固定されていて、必ず桜のストーリーは最後にプレイする事になります。おそらくほとんどのプレイヤーはそこに至るまでにセイバーや凛に対して思い入れを強めている頃ですから、そのプレイヤーが桜ルートに入ると間違いなく強烈な嫌悪感を持つ事でしょう。なぜなら桜ルートでの２人扱いがあまりにお粗末だからです。少なくともセイバーファンは桜に対して良い感情を持つ事は無いでしょう。あれは酷い・・・。凛もバッドエンドが目を覆いたくなるような悲惨さで、いくらトゥルーエンドで良い感じになっていたとしても許し難いものがあります。結局、どうプレイヤーが贔屓目で見ようとしても、桜に対して不満を噴出させる結果になってしまう訳で、これでは逆にどうやったら桜に好感を持つ事が出来るのか、ＴＹＰＥ－ＭＯＯＮに問い正したいぐらいです。もし、この攻略の順番が固定では無く、人によって桜から攻略が可能であったとするならば、もうちょっと桜に対する見方も変わっていたかもしれません。少なくともセイバーや凛に思い入れがない分、ニュートラルな気持ちで桜に対する事が出来るのですから。とにかく以上の２つのシステムが、桜というキャラを自然と話以上に嫌われ者に仕立て上げているという現実。・・・ほんと目も当てられない。

以下は個人的な意見です。話半分で読んでください。セイバー原理主義者はおそらく桜が嫌いというより、桜シナリオ自体を許容しないでしょう。あの”選択肢”の存在を絶対に容認出来ないからです。で、ここで思うのが「製作者側はナニを意図して桜シナリオを作ったのか」という事です。桜には思い入れも沸かないし、思い入れの強いセイバーが蔑ろにされる。こんなキャラの軽視が目立つシナリオを延々と語りまくって、しかもそれをグランドフィナーレと称する製作者の意図がちっとも掴めないのです。おそらく重点の捉え方が間違っているのですよね。桜は攻略対象キャラではなく、単なる聖杯戦争という物語の語り部の１つでしかなかったのではないか。桜ルートは聖杯戦争自体が重要なのであって、桜はその真相を語る為に無理矢理でっち上げられたキャラだったのではないかと考えるのです。これなら桜がぞんざいに扱われるのも頷けます。実は恋愛対象でも何でも無く、言うなれば体のいい”狂言回し”だった訳ですから。ただ、そう考えるとＴＹＰＥ－ＭＯＯＮは慎二や臓硯と一緒・・・という事になります。話を明確化させる為だけに桜の上っ面を利用するだけ利用したのですから。取って付けたようなトゥルーエンドで誤魔化しても無駄です。ひでーやつらだ！　こう考えると『ｓｉｄｅ　ｍａｔｅｒｉａｌ』の桜の項にある、「スタッフ内ではトップ人気？」も欺瞞にしか見えない。ほんとにひでーやつらだ！！　と言いますか、マジでスタッフ内で桜がトップ人気だったら、きのこ氏を締め上げるだろ、普通。・・・まぁとにかく、桜ルートの意図する所を鑑みれば、ルートそのものをもっと強力な線引きをして裏シナリオ（いわゆる隠しシナリオ）として扱い、セイバーや凛ルートと乖離させるべきではなかったか？というのが個人的な結論ですね。それでも桜の不幸は変わらないが・・・。

最後に、ほんと１つでもいいので、二次創作作家さんが桜に優しいＳＳを書いてくれる事を希望。喜んで読みに行きます。イラスト描きの方、桜に優しい同人誌（アンソロ）描いてください。喜んで買いに行きます。以上。

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ビーフストロガノフ(屠絵 味噌)